安藤哲也

安藤哲也「初産は、夫婦の絆を強めるための最も大事な時期」 〜夫婦で笑って育児を楽しむコツ Vol.1〜

「育児も仕事も人生も笑って楽しめる父親を増やす」ことを目的に、今から10年前の2006年に設立された、父親支援事業を行うNPO法人「ファザーリング・ジャパン」。その代表を務めている安藤哲也さんは、「夫婦でうまく育児をするために」といったテーマで、パパだけでなく、ママも含めた夫婦向けの「両親学級」として、数多くの講演を行っています。そんな安藤パパに、夫婦で笑って育児を楽しむためにはどうすればいいのか、そのコツについて自身の体験も交えつつ、語っていただきました。

こんにちは。ファザーリング・ジャパン代表の“安藤パパ”こと、安藤哲也です。

両親学級などこれから親になる夫婦に向けて、「育児は夫婦の共同プロジェクト」といったテーマでお話をすることが多いのですが、最近は、パパの参加がかなり増えているといった印象です。

もちろん、子どもを産むのはママなのですが、そこから先は夫婦で力を合わせて子育てをするほうが楽しいですし、うまくいんだよっていうことを大きなテーマとして掲げて、いつもお話をしています。

そんな僕のこれまでの経験から、ママとパパ、夫婦一緒に「育児だけでなく、仕事も人生も笑って楽しめるようになる」には、どうすればいいのか? そんなことを、語っていきたいと思います。

自分自身が育児を楽しまなきゃ、と思った

僕自身、2男1女の父親で、第1子である長女は、この春からついに大学生になりました。長女が産まれた頃、僕ら夫婦は産後も共働きでいくということを決めていたので、「自分も子育てをしなければ」という想いが強くありました。

しかし、私自身、今は50代。昭和世代のど真ん中の世代です。そんな時代の家庭で育ったので、自分の父親に育児だとかベビーケアといった、いわゆる“日常的な子育て”をしてもらったことはほとんどありませんでした。

しかも、長女が生まれた頃、僕はサラリーマンとして働いていたのですが、会社の先輩が積極的に子育てをやっているといった姿もまったく見たことがありません。いざ、自分が積極的に子育てをしようと思っても、何をどうしていいのか、サッパリわからない(笑)。

しょうがないので、とりあえず、朝の保育園の送りだけはやっていたのですが、それだけだと、どこか“お手伝いさん”みたいな感覚でしかないんですよね。そうじゃないパパなりの育児というか、当たり前のことなんだけれども、「やらなきゃいけないことを当たり前にやること」が大事なんだろうなあと、当時の妻を見ていて思うようになりました。

今でも多くの新米パパたちから様々な悩みを聞いているのですが、私もご多分に漏れず、新米パパだった頃には、正直、育児に関してもめることも多く、夫婦のバランスが悪くなった時期もありました。そんな時に、何かこう、根性論的な感覚で何とか乗り切ろうとするのではなく、何かいいメソッドができないものかと思ったんです。

そんな時に感じたのが、「パパである僕自身が、育児を含めた人生をもっと楽しまなきゃ!」ということでした。

それは決して僕だけの問題ではなく、これから子育てをするすべてのパパたちにとって共通のテーマになってくるだろう。そう思ったので、「ファザーリング・ジャパン(FJ)」というNPO法人を立ち上げ、笑っているパパを増やし、社会を変えることを仕事にしようと決めたのです。

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“幸せのものさし”が大きく変わった10年前

今でこそ、FJは子育て中の父親を支援する組織としては、全国規模で展開する日本最大の組織になっています。80年代頃には僕らよりひと回り上くらいの世代で、父親の育児参画を推進する団体があったそうですが、時期尚早だったり、経済環境などで今ほど社会化しなかった。

ところが、僕らがFJを始めた10年前というのは、バブル崩壊後の長引く不況や、さらにリーマンショックもありました。そして、あの東日本大震災……。ロスト感というか、喪失感がとても強い時期でもあり、男性の価値観も変わってきた。多くの日本人の“幸せのものさし”が大きく変化してきた頃だと思うんです。

経済成長だとか、自分の所得を伸ばすだとか、お父さんの職位を上げるとか……。そういったことが今までの“幸せのモデル”だったけれども、「なんか違うんじゃないか?」と、多くの人がだんだん気づき始めたのではないでしょうか。

そして、振り向いてみたら、家族がいた。多くの人にとって、「家族が一番」なはずなのに、「大事にしてなかったよな、オレたち……」みたいな。そんな気づきから、マインドチェンジし始めた男性が多くなってきたと思います。そして、マインドチェンジした子育て世代の男性たちがFJに集まるようになって、全国へと拡がっていくことになりました。

新米ママ&パパが陥りやすい落とし穴とは!?

10年前とは少し様子が変わってきてはいますが、それでも普遍的なことで言えば、日本の場合、まだまだ男女の役割に関しては、分業感が非常に強いですよね。

育児は女性がメインでやるものだという意識が、まだパパだけではなく、ママにも根強くある感じがします。

その象徴的な例として挙げられるのが、実は「里帰り出産」なんです。

里帰り出産っていうものは、先進国ではたぶん、日本にしかない風習でしょう。アメリカなどのように里帰りしないことが文化として成り立っている社会では、核家族向けの育児状況に合わせてそれぞれが対応します。出産時には、夫が会社を休んだり早退してサポート。ベビーシッターやボランティアなども利用して乗り切るのです。

ところが、日本では職場の長時間労働が慢性化していたり、男性の育児休業取得が進んでいなかったりですよね。結局、夫の協力度が低いのでアテにならない。だからこそ、日本では仕方なく女性が実家に里帰りしてしまうといった傾向が続いているといった感じです。

一方、ヨーロッパでは、産後というのは夫婦にとって一番、大事な時期と考えられていて、「夫婦が絆を強める時期である」とされています。

家族形成をする上で産後が一番、重要な時期と捉えられているのです。そして、未熟な若い夫婦だからこそ、パパもママと一緒になって子育てを経験するためのいい機会と考えられているのです。

産後すぐというのは、ママは出産という大仕事の直後だから、とにかく身体を休めないといけません。育児も家事もすべて1人でやるというのは無理です。そんな時期にパパが料理を作ったり、洗濯をしたり、赤ちゃんのケアを少しでもして、とにかく二人で産後期を過ごす。

最初はうまくできなくたっていいんです。最初からスーパーイクメンなんていないんですから。

うまくできなくても一生懸命に頑張るパパの姿を見て、多くのママは「この人と結婚して良かった」と思うのではないでしょうか。そういうふうに産後は、夫婦の強い絆が生まれやすい時期なんです。それができると、夫婦間の協力体制もうまくいくようになるので、それ以降の育児はもっとラクになるし、育児を含めた家庭生活もますます楽しくなっていくのです。

里帰り出産すると、パパスイッチが入らない!?

日本とヨーロッパの人たちの考え方とは、真逆なんです。ひと昔前まで子育ては、ひとつの共同体のなかで子どもを産み、みんなで育ててきました。

その後、産業が変化して、多くの人が都市部に集まるようになって核家族が増え、子育て環境が変わってきた。ママになる人は、「初産はやっぱり心配だから」ということで、自分の母親にそばにいてもらったほうが安心ということで里帰りしたり、実家の母に来てもらったりすることになる。

そうなると、パパは育児から引き離されしまうようになるわけです。

そして、「自分の出番はまだない」と思ってしまい、パパになった男性は、出番がないぶん、「仕事を頑張って稼がないといけない」と考えて、また残業をしてしまうのです。

だから、里帰り出産中というのは、パパの子育てのスキルがぜんぜん上がっていかないし、いつまで経っても“パパスイッチ”が入らないのです。

実は僕も、18年前、妻の初産の時に里帰り出産をやってしまいました(笑)。あの時は知識もなかったし何も考えてなかったのです。しかし、実際にやってみて思ったのは、里帰り出産というのは、パパからすると1人、家族から分離されている感じがして、何とも物悲しいものでした。

安易に里帰り出産を選択してしまったことを後悔し、「ああ、父親として成長するためには、里帰り出産はよくないな」と思いました。

もっとパパになった喜びを噛みしめながら、大変だけれど毎日、わが子と接して育児を味わいたい、楽しみたいと思っているのに、今、ここにわが子はいない。「コレって何なんだ?」と大きな疑問符が頭のなかに浮かびました。

だから2人目、3人目の出産は自宅に近い病院に決めました。上の子の世話もあったので、なるべく産前産後も二人でやるようにして、どうしても無理なときは地域の力を借りて何とか乗り切りました。

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初産は、夫婦の絆を強める大事なトレーニング期間

特別な事情を除いて、夫婦の絆を強められるこの時期に里帰り出産をすると、パパとママでは育児に対する意識がズレてしまう可能性があります。それが産後だけでなく、その後の家庭生活において、夫婦間の溝になるケースを数多く見てきました。

最近は「里帰り離婚」という言葉も聞かれるようになりました。

里帰り出産で実家に帰り、そのまま帰ってこない。あるいは一度、夫の元に戻ったとしても、夫に父親としての自覚がなかなか芽生えない。ついに呆れてしまい、再び子どもを連れて実家に戻り、二度と帰ってこないケースもありました。

子どもが生まれたというのに、「仕事が忙しくて」とか、「自分の時間が欲しい」などと言って、常に仕事優先・自分優先で、育児はママに任せっきり……。それでは、ママの気持ちが冷めるのも仕方ないでしょう。

しかし、そういう話を聞くと、「男性が悪い」と思われがちですが、私はそうは思いません。そもそも日本社会では男性に対する「父親教育」が足りないのです。

何をどうしていいのか分からないパパは多いし、やはり男性には稼ぎ手としての期待が自他ともにあって、どうしても育児よりも「仕事優先」になってしまいがちなのです。

もちろん、仕事は家族が暮らしていくためには大事なんだけれど、育児というのは、ほんの限られた期間限定の大事で楽しい仕事なのです。

「夫婦で家事も育児もうまく分担すれば、ママだけでなくパパも、もっと楽しく育児に関われるようになるのに、何ともったいないことをしているんだろう」と思うのです。だからこそ、父親を支援するNPOを立ち上げて、父親の意識や行動を変え、家族にとって嬉しい「笑っているパパ」になるためのサポートをしてきました。

両親学級で講演するときに、プレママ、プレパパに「このなかで里帰り出産を考えている人いますか?」と聞いてみると、半分くらいの人が手を挙げます。そこで、今のようなことを語ると、「そうなんだ、どうしようかな?」「もう一度、夫に相談してみよう」と考え直す人も少なくありません。

特に、初めての出産・育児というのは不安なこともあるでしょう。ママからすれば、産後は実家にいようが、自宅にいようがどこにいたって大変です。違いは、サポートしてくれる人が母なのか、夫なのかの違いだけですよね。

家事を含め、明らかに戦力になるのは母親なのかもしれません。ただ繰り返しになりますが、産後というのは、「夫婦の絆を一番強める時期。パパの大事なトレーニング期間」なんだということをよく認識してもらいたいと思います。

里帰り出産は、夫婦にとってマストではありません。そう認識した上で、自分たち夫婦はどういう選択をすべきなのか、一度、じっくり話し合ってみるといいのではないでしょうか。育児というのは、夫婦の協働プロジェクトなのです。

この記事のキュレーター

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NPO法人ファザーリング・ジャパン設立者・代表理事&NPO法人タイガーマスク基金代表理事・1962年東京都生まれ。二男一女のパパ。「笑っている父親を増やしたい」と、年間200回以上の講演や企業セミナーのほか、絵本と音楽を融合させた絵本ライブ「パパ ’s絵本プロジェクト」などで全国をパワフルに飛び回る。厚労省「イクメンプロジェクト推進チーム」や東京都「子育て応援とうきょう会議」などの委員も務める。『父親を嫌っていた僕が「笑顔のパパ」になれた理由』、『パパの極意から仕事も育児も楽しむ生き方』、『パパ1年生』など著書多数。
安藤哲也

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