安藤哲也コラム6回目

安藤哲也「今の時代に合った、自分たちなりの新しい家族の形を模索しよう」〜夫婦で笑って育児を楽しむコツ Vol.6〜

「育児も仕事も人生も笑って楽しめる父親を増やす」ことを目的に、今から10年前の2006年に設立された、父親支援事業を行うNPO法人「ファザーリング・ジャパン」。その代表を務めている安藤哲也さんは、「夫婦でうまく育児をするために」といったテーマで、パパだけでなく、ママも含めた夫婦向けの「両親学級」として、数多くの講演を行っています。そんな安藤パパに、夫婦で笑って育児を楽しむためにはどうすればいいのか、そのコツについて自身の体験も交えつつ、語っていただきました。

最終回となる今回では、今の時代に合った、自分たちなりの新しい家族の形を模索するためのアドバイスについて語っていただきました。

「共働き&共育て」のハイブリッド型がオススメ

今の日本社会は低成長時代です。一生懸命働いていても、残念ながら給料はなかなか伸びません。しかも高齢化は必須。だから若いパパやママには、「ハイブリッド型の家庭システム」をオススメしたいと思います。

ハイブリッド型というのは、2つのエンジンで回すということ。夫婦で共働きをして家計を支え、子育ても“共育て”、つまり、ママだけでなくパパも協働するやり方です。たぶんその方が、家計的にもセーフティーだし、育児においても楽しくエコな生活を送れると思います。

わが家もそうでしたが、ハイブリッド型の方が、ママだって自分のやりたかった仕事を続けることができるし、加えてパパも育児により深く関わることができたり、家事も覚えます。いいと思いませんか?

 

もちろん、それを強制するつもりはありません。ただ、昭和の時代のような子育てのシステムでは、うまく行かないケースがあります。

 

私はNPOの活動の中で、これまでたくさんの行き詰った子育て家庭を見てきました。 その多くが、片働き・片育ての“役割分業型家庭”でした。ママが子育てに負担感を抱えていたり、夫との関係に悩む。

あるいは、パパも「稼がなければ」と毎晩残業でまったく子育てに関われなかったり、長時間労働が慢性化し、疲れ果てて体調を崩す。挙げ句の果てに、休職してしまったといった例をたくさん知っています。

 

そうなると、家族はより大変になります。そういった夫婦の相談にも乗ってきたことは数多く、決して珍しいケースではないのです。

「専業主婦が悪い」と言っているのではありません。繰り返しますが、今はひと昔前のように夫の給料が右肩上がりで伸びない時代。自分の父親と同じように、男性だけの収入でやっていけると思っているのであれば、それこそ、ママが昭和の自分の父親の幻影を追っているわけで、家庭生活や子育てにおいてもリスクが出てきてしまいます。

 

ママが子どもを預けて働くには、確かに都市部の保育園問題は悩ましいものです。でも、始めから「無理」と思わず、選択肢の一つとして、「どうしたらそれが可能になるか」を考えてみませんか?

カンタンに諦めて仕事を辞めてしまったりするのは、あまりにもったいないし、低成長時代においては戦略性がなくて「危ないなあ」と、私は思ってしまいます。

「できれば、子どもと一緒にいてあげたい」という想いは、母親になれば当然あることでしょう。

でも、長い人生の中で、子育て期はそう長くありません。逆に、これはパパたちによく言うことですが、子育ては仕事のスキルアップや多様な視点を持つうえでも有効なのです。

 

想像してみてください。今は人生80年の時代。仮に20年で子どもが自立し、50代で子育てが終わったとしたらどうでしょう。そこからは20~30年は生きている勘定になります。楽しい老後生活を送るために必要なのは、ハイブリッドな共通体験の元に生まれる夫婦のサステイナブル(持続可能)な愛情や、それなりのコスト(家計収入)です。

でもこれからは年金の支給額も減っていきます。 女性だって大卒で企業に勤め、母親になっても夫と共に育休取って、定年まで働き続ければ、たいてい2億円は稼げます。住宅ローンや子どもの教育費を払ってでも貯蓄ができます。

それが老後の生活コストになります。それがあれば、老後、子どもに迷惑をかけないで済むのです。 出産後に専業主婦となり、夫の給料一本でやっているうちに、夫が働き過ぎでうつ病になって長期休職してしまった。

こんな経験をした、関西エリアに住むママは私にこう言いました。

「生活がたいへんです。私も働き続ければよかった……」と。 だから、保育園や実家の親のサポートなど諸条件が揃い、働くことができるのであれば、より、リスクの少ない「ハイブリッド型」をやっぱりオススメしたいと思います。

 

ママにとって仕事を続けるか否かは、大きな選択

繰り返しになりますが、定年まで働いたときの生涯賃金は、平均で約2億円です。

妻が出産して仕事を辞めたとなると、「生涯の世帯収入」で考えると大きな差が出てしまいます。ハイブリッド型なら、夫婦で合計4億円。

これだけあれば、子どもを大学に行かせることも充分に可能。父親もしっかり育児に関われます。 女子大で授業をしていると感じることですが、「結婚して子どもを産んだら仕事を辞めて、家に入るのが一番の幸せ。自分が子育てするので、夫には一生懸命に働いて稼いでもらいます」という女性というは、実は未だに多くいます。

 

そういう生き方を否定するつもりはありませんが、冷静に考えれば、先に述べたようなリスクはつきものですよね。そんな上等な男性はどこにいるのか? 探し当ててうまくいけばいいけれども、うまく行かなかったときはどうするのか? 確かにママにとって仕事を続けるか否かは、大きな選択です。

日本の働き方や保育のインフラ整備はまだ十分ではありませんが、それが変わるのを待っていたら子どもは育ってしまうし、自分も歳を重ねて、働くことがより困難になっていきます。

だからこそ出産前からしっかり夫婦で「わが家の経営戦略」について考え、夫婦で話し合うことをおススメします。 また育休復帰後でも、行き詰ったときや悩んだきは、一人で悩まず、夫婦で話し合いを重ねて日々改善すること。

パパも、子どもの成長や夫婦の老後に思いを馳せながら、家族の一員としての自分の役割を真剣に考えることが大事ですね。ハイブリッド型の家庭に「正解」はないのですから。 ando_column6_image1

古い考えに縛られると、苦しくなる

実感として、東京などの都市部では、このハイブリッド型の夫婦がどんどん増えています。

しかし、地方に行くと、まだまだ「子育ては母親に任せておけばいい」と思い、仕事ばかりしているパパが多いというのが現状です。

しかし、申し上げた通り、収入があまり伸びない時代なので、「オレが稼がなきゃ!」と思えば思うほど、パパはまずます苦しい状況になります。

ママはママで、夫の給与明細を見ながら、そろそろ子どもの受験期が視野に入った頃、「ああ、やっぱり、仕事を辞めなければ良かった」と思ってしまうのかもしれません。

これは能力の問題ではありません。時代性であり、経済環境が悪化してしまったからなのです。それを見過し、行き詰ってしまう子育て家庭に共通するのは、ひと昔前のステレオタイプな母親像や父親象に縛られてしまっているということ。つまり、OSが古い。スムーズに作業が進まないパソコンです。

そのパソコンはやはり、OSをアップデートするしかないのです。 かつてのモデルに縛られるのではなく、今の時代環境や、自分たちが目指す家族のモデルに合ったやり方をしていくほうが、いい結果が出るのではないかと思います。

今後はどの子育て家庭でも「家族の新しい形」を模索することにはなりますが、最初からすべてうまくいくはずはないでしょう。だからこそ、折を見て夫婦で話し合い、模索しながら、何か壁に当たれば、調整していけばいいのです。 新しい家族の形を模索する作業というのは、私は「バグ潰し」みたいなものだと思っています。

仕事でいつも使うパソコンは、完璧なワークステーションというわけではありませんよね。ハードディスクを増設したり、いろんなアプリケーションをいれたりして、常に快適な作業環境を整える。働くパパやママは会社で仕事としていつもやっているわけですが、実は子育て家庭もまったく同じなのではないでしょうか。

子育てに関しても、最初から正解があってこうやって育てれば「いい子に育つ」といった方程式なんてありません。

毎日、こうじゃない、ああじゃないと思い悩みながら夫婦で相談して、ベストな方法を見つけていく。こういった作業こそが、本当の意味での子育てであり、育児のリスクヘッジ(危機回避)になるのだと、私は思っていましたし、わが家ではそうしてきただけです。

いつも妻と言ってるのは、「子育ても仕事もたいへんだけれど、僕ら親が人生を楽しんでないと、子どもも不安になる。どちらかに負担が偏らないよう、二人で仕事も育児も手を取り合ってやっていこう。僕らが家で笑っていること。それが子どもにもいいし、きっと子どもたちも自分の人生に希望を持てるはずだよ」、ということでした。

自分の人生をどうデザインするか

子どもが産まれると、父親も母親もみんな、「子どもをちゃんと育てたい」と考えるようになります。 しかし、そのためには「親はどうあるべきなのか」とか「いまの時代に合ったシステムは何か」をあまり考えることもなく、かつてのやり方でなんとなくやってしまい、その結果、逆にどんどん、リスクを高めてしまっている家庭もあります。

3人の子どもを夫婦で育ててきた身として言いたいのは、「子どもをちゃんと育てたい」のなら、「自分のこれからの人生を、どうデザインするのですか?」ということです。

かなり年代の違う親や先輩の事例などを鵜呑みにして、ありもしない“正解”を探しても意味はありません。 家族のため、自分のために何が有効なのか。家族が幸せに生きるために、自分の人生をどうデザインするのか。

「働くか、働かないか」ではなく、いきいきと生きることが幸せだとしたら、仕事することで幸福感を感じる女性ならば、ママになっても働けばいいし、そして笑っていればいい。

そんな自分の人生を生きている母親のことを、子どもはたぶん誇りに思うはずです。 そのためには、日ごろからの家族間のコミュニケーションが一番大事ですが、家の外にも、同じ時代を生きる子育て世代の仲間をどんどん増やして、情報交換をしていくのがいいのではないでしょうか。 ファザーリング・ジャパンには「パパ友」が400人います。みんなで集まって、現状を語り合ったり、悩みを打ち明けたり、相談し合ったりしていくうちに、いろんな気づきがあり、学んで成長していく父親をたくさん見てきました。

ママたちの中にもトンネルから出て、今、輝いている人はたくさんいます。その流れに合流することで、きっと、自らの幸せな家族の形が見えてくるのではないかと思います。

 

私のコラムは今回で最終回になりますが、皆さんの子育ては、まだまだこれからも続きます。

今後もいろいろなことが起きるでしょう。もし、ちょっと迷ったり、落ち込んだ時があったら、本稿を読み直してもらえるとうれしいです。 子育ては期間限定。だからこそママもパパも、子育てを楽しんで、自分の人生をよりよくデザインしていってください。

この記事のキュレーター

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NPO法人ファザーリング・ジャパン設立者・代表理事&NPO法人タイガーマスク基金代表理事・1962年東京都生まれ。二男一女のパパ。「笑っている父親を増やしたい」と、年間200回以上の講演や企業セミナーのほか、絵本と音楽を融合させた絵本ライブ「パパ ’s絵本プロジェクト」などで全国をパワフルに飛び回る。厚労省「イクメンプロジェクト推進チーム」や東京都「子育て応援とうきょう会議」などの委員も務める。『父親を嫌っていた僕が「笑顔のパパ」になれた理由』、『パパの極意から仕事も育児も楽しむ生き方』、『パパ1年生』など著書多数。
安藤哲也コラム6回目

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